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2007/03/09(金) ]
第二部の残りです。
この後もうひとつの記事で第三部少し乗っけられたらと思っています。
では、続き読むにて、どうぞ♪
この後もうひとつの記事で第三部少し乗っけられたらと思っています。
では、続き読むにて、どうぞ♪
古の血の因果を断ち切れ 第二部 覚醒
第八話 二つ名と、芽吹く想い
この胸に芽吹く 想いがある
夢だと、思った。または、幻。
しかし背中に回された腕は暖く、すぐ傍で繰り返される呼吸も、本物であった。
意識が飛ぶまさにその時、名を呼ばれた。
いつもの聞き慣れた甲高くよく通る子供のような声ではなく、低く、力強い男性の声で。
「とう、だ──……?」
信じられなくて、その名を呼んだ。
普段呼んでいる名とは違う、先程知ったばかりの本当の名を。
心配そうに、焦った表情で駆けつけた紅蓮は、間一髪秋緋を抱き留めていた。
紅蓮は、長く息を吐き出す。
「そうだ。六合から聞いたのか?」
「う、ん……。いつっ」
もっと紅蓮の顔を確かめようとして、秋緋は激痛に顔をしかめた。天狐の血が、昌浩に引きずられて体内を暴れ回っているのだ。
「おい、無茶をするな。大人しくしてろ」
紅蓮が慌てて秋緋を押さえる。
「ま、さひろは──…?」
紅蓮の動きが止まった。その表情は影になり、秋緋からは読み取れない。
「まさか…。あ」
昌浩たちがいた方向に、白い火柱が立っていた。そして、流れ込んでくる感情(もの)
──ほら、私は無茶をしているでしょう? だから、後でちゃんと叱ってね
「あき、こ?」
「秋緋?」
紅蓮が訝しげに秋緋を見る。
──ねぇ昌浩、一つだけ教えてほしい。あなたのために。
「私ができることは…何?」
「秋緋?」
もう一度、紅蓮が名を呼ぶ。秋緋の瞳は、何かが乗り移ってしまったかのように光がない。
「この音を、知っている…この、音は……」
「秋緋? おい、秋緋!」
唐突に、天狐の通力が消えた。余韻も残さずに収束していく。
「昌浩? まさか昌浩…っ」
紅蓮が色を失う。
「違うわ」
いつの間にか、秋緋はしっかりと紅蓮を見つめていた。
「昌浩は、大丈夫。ちゃんと、生きてるわ」
「秋緋、それは…」
ふわりと。秋緋は微笑んで見せた。
「大丈夫。彰子が、連れ戻してくれたわ」
信じられないと言うような紅蓮に、秋緋はもう一度同じことを言った。
「大丈夫よ、騰蛇。昌浩は、生きてるの。天狐の血に、負けてなんかいないわ」
紅蓮は黙って秋緋を凝視していた。
秋緋は紅蓮を安心させるかのように、手を伸ばして彼のざんばらな濃色の髪を撫でる。
「ありがとう。私の所に来てくれて。もう、充分よ。だから、昌浩の所に行ってあげて」
「秋緋、それはっ」
し、と秋緋は人差し指を口の前に持ってきた。
「私は大丈夫。ここからは一人で行ける。昌浩が心配なのでしょう?」
確かに、そうだ。昌浩が心配で、今すぐその無事な姿を見たいという思いは確かに存在している。
だが。
「いや、いい。彰子もいれば、六合もいる。お前は、俺が連れて行く」
「え、ちょ、騰蛇?」
紅蓮は秋緋を抱え上げ──俗に言うお姫様だっこというやつだ──言った。
「後悔だけは、したくなかったんだ」
「?」
「だから今は、お前の傍にいよう」
どくん、と。
秋緋の鼓動が一段と跳ねた。
天狐の血の所為ではない。今目の前にいるこの存在に、あきらかに秋緋は反応していた。
「紅蓮…秋緋…」
苦しそうな声が秋緋を呼び止めた。
「昌浩! 彰子も…」
二人はぼろぼろだった。彰子は六合の霊布を被っているが 、その下には無数の傷があることだろう。
「はやく、じい様の所へ…」
《自分で歩くと言って聞かない》
少々憤りを含んだ声が響いた。六合のものだ。
そう言ったら昌浩は意地でも自分で歩き通すだろう。
と、紅蓮は自分が今人型をとっていることに気づいた。今は昌浩に気が取られているからいいが、彰子がこちらに意識を向けていない内に、なんとかしなければ。
「昌浩、先に行ってて。私は、やることがあるから」
「わかった」
昌浩がまた歩き出す。彰子はあまり気にとめることがなかったようだ。
「……助かった」
「あなた、彰子に本性悟られたくないでしょ」
なんとなく分かったわ、と呟いて、秋緋は紅蓮の腕から降りた。
「あ、おい」
「もっくんに戻らなくちゃでしょ? 大丈夫。もう大分落ち着いたから」
そう言って微笑み、秋緋は歩き出す。
一度息を吐いてから、紅蓮は物の怪の姿に戻った。秋緋の許に駆けていき、その肩に飛び乗る。
「どうかした?」
「いや。ただ、やりたくなっただけだ」
不思議なことに秋緋の肩の上は、昌浩と同じくらい、もしくはそれ以上に居心地が良かった。
「…ねぇ、もっくん」
「なんだ?」
「紅蓮、て名前は、騰蛇の?」
一瞬、物の怪は強張る。先程、昌浩が呼んだのを秋緋は記憶していたのだ。
一度口を開きかけて閉じ、二回目で物の怪はようやく話した。
「……そうだ。俺の唯一の至宝、二つ名だ。だが…」
「呼ばないわよ。それくらい察せられるわ」
物の怪は秋緋に先手を打たれて、妙に違和感を感じた。そしてその違和感に思い当たり、愕然とする。
二つ名を秋緋に呼ばせてもいいと、思った自分がいたのだ。
確かに秋緋は安倍の血筋で、生まれ持った霊力も凄まじい。だが会ってからそんなに経っていないし、教える理由が見つからない。先程昌浩より優先しはしたが、それとこれとは話が違う。
いや、違わないような気がしなくもないのだが…
後で勾にきいとくか。
そう物の怪は結論づけた。
「……」
秋緋は、わざと呼ばないと言った。
もしもそんな大切な名を、教えられでもしたら。呼んでもいいと、許可を貰ってしまったら。
それこそ、抑えなければならないものがあふれ出してしまう。
それだけは。
それだけは決して、してはいけないのだ。
この、胸の中に芽吹こうとする想いは。決して叶うことなど無いと、分かり切っていることなのだから──…
胸の中に 芽吹き始めたその想いを
片方は気づき 片方は気づかない
気づいた方は 抑えようとし
気づかない方は
知らない内に 想いを加速させていく
お互い気づかぬ内に
想いは
お互いを引きつけ始めた──……
第九話 変化の兆しと生きる道
気付いて自覚してしまった想い
気付かず加速してしまった想い
どちらも
抑えることは 難しいのだ
秋緋と物の怪は昌浩たちに追いつき、晶霞が天を仰ぎ晴明が横たわる場所へ到着した。
秋緋が物の怪を肩に乗せたまま勾陣に近づく。
「自分で歩くと言って聞きゃしねぇ。頑固者め……!」
秋緋も同意と言わんばかりに頷く。
昌浩は憔悴しきった様子で、晴明の袂を握った。
「じい、様」
──どうした、昌浩や
蘇る、声、仕草。そのどれもが、自分に向けられたもの。そうして、背中を押してくれたり、声を聞いてくれたりして、昌浩の成長を見守ってくれていたのだ。
「……じい様……」
秋緋の許に、流れ込んでくる想い。昌浩が、本当に言いたいこと。秋緋に流れ込んでくるほどに強い、それは。
取り繕うこともなく、偽ることも飾ることもなく、いま本当にいだいている願い。
「……死んだら…やだよ…!」
顔をくしゃくしゃに歪めて、昌浩はうめいた。
意味など無いと分かりつつも、昌浩は逃さないように懸命に、祖父の袂を握り締めた。
「やだよじい様…じい様…!」
想いの強さに堪えきれずに、秋緋は物の怪に腕を伸ばした。ぎゅっと抱き締めて、決して逸らさずに昌浩と晴明を見つめる。
ばあ様、ばあ様、待ってるのは知ってる。でも、まだ連れて行かないで。
まだまだ、教えてほしいことがたくさんある。
すぐ近くにいてくれなければ。振り返ったときにそこにいてくれなければ。
自分は、前に進めない。
「昌浩……」
肉親を失うのは、つらい。それが、絶大の信頼と、愛情を向ける相手ならなおさら。
秋緋は、知っている。肉親を失うつらさ。大切な人の死。すべて、昌浩と同じくらいの年だった。
できることなら、昌浩にあんな思いはしてほしくない。するにしては、早すぎる。
だから。
二人の願いは、重なる。
今こそ、今こそ心の底から切に願う。
どうか。
「助けて…!」
助けて──!
「────その真実、聞き届けた」
荘厳な神気とともに超然と響く声があった。誰もがはっと天を振り仰ぐ。
天頂に穿たれた亀裂に閃光が駆け抜け、白銀の龍が顕現した。暗い夜闇を切り裂くような光が、鮮やかに降り注ぐ。
晶霞が眉根を寄せて一人ごちる。
「……遅い」
龍神はそのまま音もなく降下し、呆然と天を仰いでいた昌浩に依り移った。
がくんとのけぞって倒れそうになった昌浩を、慌てた彰子が支えた。彼はそのままひとしきり動かない。
昌浩は、おもむろに嘆息して口を開いた。
「……晶霞、お前のそれは、願いと言えるものではあるまい」
普段の昌浩のものとはまったく違う、凄絶さと威厳を備えた口調だ。清冽な神気が彰子の身をすくませる。
「ああ、藤の姫か。久しいな。……随分楽しそうな出で立ちをしている」
彰子はぐっと押し黙った。神の言葉に反論してはいけない。
はずなのに。
「それはないと思うのですけど、高淤の神」
秋緋の放った言葉に、誰もが驚愕した。物の怪が焦って肩に回り声をかけようとするが、高淤の方が先だった。
「私にとっては楽しそうな出で立ちなのだよ。まあ、これくらいは許容範囲だろう? 大目に見ろ」
秋緋の言葉に驚いた皆だったが、高淤のその言葉にも驚いた。
あんな口を利いたのに、この神は全く気分を害していないのだ。秋緋はそれだけ、特別だということだろうか。
高淤はそのまま、朋友に一瞥を投げかけた。
「偽りなしの願いのみが神を動かす。晶霞、お前が言わずとも、力を貸してやるつもりではいたがね。まぁ、貸しにしておくか」
晶霞の柳眉が跳ね上がる。
「なに?」
高淤は晴明の額に手を当てて目を閉じながら、静かに告げた。
「……兆しが見えた。星宿が、さだまりつつある」
弱まった晴明の命が神の力でつなぎとめられ、消えかけていた灯火が再び輝きを取り戻す。
安倍の晴明の天命は、まだ尽きてはいない。
ただひとり、章子は取り残されていた。
秋緋でさえ、自分のこと、晴明のことに気を取られていて気づけなかった。
章子の内で、何かが、変わり始めていたことに。
なぜ、彼女がそこにいるの────?
「貴船の祭神よ、それは人間だ」
命だけは取り留めてやったと高淤が宣言した後、勾陣が努めて冷静に口を開いた。
「抑制されない神気は人の身を蝕む。あなたともあろう方が、知らないわけはないだろう」
高淤は口端を僅かに吊り上げた。
「それは、これのことを指しているのか? 十二神将」
高淤は面白そうに勾陣をながめやる。彼女が黙って頷くと、高淤は喉の奥で小さく笑った。
「確かに、形だけならばな。だが一度ならず二度までも、妖の力を解き放った以上、魂が人のままでいられる保証がどこにある? 天狐の力は人の身を削り、人の魂を削る」
「そんな……っ!」
「藤の姫よ。神といえどすべてを知っているわけではない」
高淤は目覚めぬ晴明に視線を落とした。
「人の命は、この神の与り知らないところで回っているものだよ。特にこれは…」
親指の先で自分自身を示し、高淤はいささかあきれた風情で肩をすくめる。
「我らの思惑など、遥かに超えたところに生きているようだからな。……十二神将たちはそれを痛感しているだろうが」
物の怪たちがはっと息を呑む。高淤が何のことを言っているのか、彼らは瞬時に理解した。秋緋は、その言葉の真意をつかみ取れていない。
ぐっと息を詰めて、物の怪は視線を地に落とす。
「もっくん?」
秋緋は物の怪を覗き込むが、物の怪は黙って背を震わせるだけで何も言わない。
何か、あったんだわ。私がくる前に、昌浩と何か…
ここで自分の力を使えば、物の怪が今何を考えているか容易に知ることが出来る。だがそれは、してはいけないことだ。他人の心は、そう簡単に侵していいものではない。
しかし、迷う。自分は何か、物の怪の力になれないのか。そのためには、何があったか知る必要がある。本音は、力を使うべきだと訴えている。でもそれは、許される行為ではない。物の怪の心を抉ることになる。
だから、今私に出来るのはこれくらい…
「……!」
物の怪が、驚いた表情で秋緋を見上げる。だが、秋緋の悲しそうな儚い笑みを見てまた視線を戻す。
秋緋はしっかりと物の怪をその腕に抱いていた。話を聞くことも、慰めることも、叱咤することも、一緒に泣くことも出来ないから。
物の怪は、自分を何度も助けてくれた。その心が、誰よりも脆く傷つきやすいのだということも、誰よりも優しいということも、秋緋は知っている。
時折、自分を責めるように揺れる瞳。それが酷く悲しくて、今切に思う。
ねぇ、私に出来ることは、何……?
彰子が、昌浩に対し思うこと。秋緋が、物の怪に対し思うこと。二つは、同じで。でも、秋緋の思いは通じていなくて。酷く、切ない。
そんな二人を一瞥して、勾陣は瞼を振るわせた。物の怪が何を考えているのか、彼女には手にとるように理解できた。そして秋緋は。
彼女の想いに、勾陣は薄々気づいていた。本人は気づいていないだろうが、彼女は自分たちに対して壁を作っている。観察力の優れた者にしか分からないような、極めて薄く、頑丈な壁。それが、あの同胞相手には和らぐのだ。
それがなぜか、ひどく切なく、悲しい。
沈黙する物の怪と秋緋を見ていた高淤はふうと息をつくと、感情の見えない朋友に苦笑を向けた。
「随分と、不機嫌そうな顔をしているじゃないか」
天狐晶霞は答えない。高淤は構わずに続けた。
「これの星宿もまた、神の手を離れた。あいにく、私はさだめを完全に覆す術をもってはいない」
それは、神意を超えたものでなければならない。
たとえば、神の力の及ばぬ冥府の住人。
たとえば、違う時間軸を生きる人間。
たとえば、神にも通じる力を宿す、妖。
高淤は静かに微笑し、そのままふっと瞼を落とした。
「未来からきた人の子よ。お前はこれからどう生きる?」
「え?」
凄絶な波動が昌浩から抜け出し、天高く飛翔していく。天狐凌壽の生み出した異界の空を突き抜けて、貴船の龍神はそのまま姿を消した。
口にしない想いは 決して届くことはない
ならばどうする? 人の子よ
どちらの道も 険しく 辛い
何も告げずに 何も進むことなく終わらせるか?
それとも
想いを告げ 別れの重みを背負って生きるか?
それとも
あの人の子のように
神意を超えた答えを見出すか──…?
第十話(最終話) 呑まれ、行く先
思いもしなかった
まだ続くと思われていたものが
あっさりと終わりを告げるなんて
「……そろそろ限界だ」
十二神将たちは、そのときになってはじめて、彼らを囲む結界が創生されていたことに気がついた。境界の向こうは不安定に崩れだしている。
晶霞は晴明を一瞥したあと、動かない昌浩に視線を投じた。
「……一度たがが外れてしまえば、完全に抑えることは難しい。人の心を保つ努力を怠れば、その子供は天狐の血に呑まれる」
「それはっ、私にも言えることですよね…っ!?」
彰子が息を呑むのと同時に、秋緋は訊ねていた。昌浩にひきづられて、たがが外れる一歩手前まで行った。自分も、危ないということだろうか。
「そうだ。お前には、守りがない。その点では、お前のほうが危うい」
ちらと秋緋を一瞥し、晶霞は続ける。
「守りがあるなら、再び与えてやることだな。この空間は崩壊寸前だ。お前たちにその力があるのなら、人界に戻れ。でなくば死ぬぞ」
「言われなくても……!」
吐き捨てたのは青龍だった。
青龍は天后と玄武を顧みた。
「路をつくれるか」
「ええ」
頷いた天后とともに、玄武は己の持つ通力を開放した。随道を、再びこじ開ける。
「────長くはもたん、急げ」
青龍を先頭に、昌浩を担いだ朱雀と物の怪、天一に秋緋が随道に飛び込んでいく。
その瞬間、晶霞が眉を眉をひそめ、ついで目を瞠った。
「……? どうされた」
勾陣が訝って訊ねると、天狐晶霞は信じられないといった体で答えた。
「異次元の穴が開いた」
「何? どこに」
「未来からきた人の子の許に。もう塞がったが、あの人間の気配は消えた」
「なんだと!?」
それにはその場にいた誰もが凍りついた。
「秋緋は、秋緋はどうなった!?」
「おそらく、もとの次元に」
「もとの次元…未来へか?」
それは、それでいい。だが、なぜ今急に? 天狐凌壽はまだ生きている。
その疑問を感じ取ったのか、晶霞が口を開く。
「私にも理由はわからぬ。だがこれで、あの娘は巻き込まれずにすんだ。これでいいとは思うが」
勾陣は押し黙った。確かにそうだ。秋緋はもともと未来の世界の住人で、そこに帰るために晴明の力を借りようとしていた。ただ一つ、天狐の血のことが心配だが、目的が遂げられて、これでいいではないか。
だが、ひっかかる。本当にこれでいいのかと。
秋緋が抱いていた想い。いまそれに気づいているのは自分だけだろう。このまま黙っていればいいことだ。だが、彼女の気持ちは? そして、物の怪に芽生え始めている想いは? 昌浩以外に、特別な感情を抱き始めている物の怪。これはいい傾向だったのに。何よりも、秋緋がいないということに違和感を覚える。
「何をしている、急げ」
勾陣は戸惑いを抱えつつも、中宮章子のもとに足を進めた。
あいつには、正直に言ったほうがいいだろう
「なんだと……!?」
知らされた面々は、みな同様に驚愕していた。
「秋緋が、帰った…?」
「ああ。天狐晶霞によれば、な。嘘をつく必要がないから、多分真実だ」
物の怪が焦った様子で勾陣に詰め寄る。
「一体なぜ、こんな急に」
「分からん。だが、随道をこじ開けたことで、何らかの力が働きもとの時代に戻れたのだろうと。天狐晶霞曰く、秋緋は未来に生まれていたから私たちとは時間軸が違う存在なんだそうだ。だから、もとの時間軸に戻ろうとする力が働いたのだろうと、そういうわけだよ。良かったじゃないか。これ以上危険な目に会う前に、もとの世界に戻れたんだから」
「あ、ああ…」
だが、頷く物の怪の顔は暗い。勾陣も、そう言いながら気分は晴れなかった。何か、違う。違和感が抜けない。
「とにかく、今は晴明と昌浩を」
そうして、面々は散っていった。
「…………」
そう。これでいいんだ。これで。
そう思うのに。
なぜこんなにも、胸が締め付けられるのか。
物の怪は、その答えを持ち合わせてはいなかった。
笛吹香葉(うすいかよ)は、散歩がてら貴船神社に寄った。ここの空気は澄み切っていて、とても好きだった。
階段を上りきり、本宮に参ろうと足元から視線を上げれば。
「あんれまぁ」
そこには、見慣れぬ服を着た一人の少女が倒れていた。
人の子よ。お前はこれからどう生きる…?
第三部へ続く
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実はこの現代帰還、私全く予想してなかったんです(ぉぃ)
というわけで、結構話の進みがゆっくりです、第三部。
第二部のように急いだりはしませんよ〜
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